活用事例

蝶

CASE03

じぶん基金

琉大生が遺した志を 次世代へつなぐ琉球宇温基金

助成先 :沖縄の離島や施設の子どもたちの教育のサポートに関する活動
– アメラジアンスクール・イン・オキナワ、子どもの居場所学生ボランティアセンターなど
募集主:琉球宇温基金
寄付者 : ご両親・ご有志

琉球大学進学とともに沖縄で暮らし始めた川崎宇温(かわさきたかはる)さんは、2年生の夏に不慮の事故で亡くなりました。19歳という若さで旅立ったご子息の意志を後世につなぎたいと、ご遺族が「じぶん基金」の仕組みを使って立ち上げたのが「琉球宇温基金」です。ご遺族が拠出しておられる寄付をはじめ、広く一般からも寄付を集め、宇温さんが生前に取り組んでいた社会活動に毎年助成をおこなっています。

 

川崎宇温(かわさきたかはる)さん

 

琉球宇温基金のはじまり

ご両親が事故の一報を受けて京都から沖縄の病院に駆けつけた後、宇温さんの傍に付き添うご両親の前に、宇温さんを見舞う友人たちが次々に訪れたそうです。

「事故に遭ってから亡くなるまで病院で頑張ってくれた2週間は、今振り返れば、私たち家族への宇温からの贈り物だったのではないかと思っています。お友達の皆さんが次々に訪れて、私たちが知らない沖縄での宇温の話をしてくれました。『宇温に声をかけてもらっていろいろな活動をするようになった』という方も多くいました。お世話になっていた社会学の先生方は、レポートやテストの解答用紙を持ってきて見せてくださいました。そこには、宇温が考えていたことや思いが詰まっていました。19年という短い人生でしたが、何か宇温が生きた証を残したい、宇温が思い描いていたことを叶える方法を考えたい、と思いました」(お母様)

 

「私たちが知っている宇温は、『阪神タイガース』と『よしもと新喜劇』が好きで、友達と語り合うのが好きな普通の高校生でした。それが大学で沖縄に行って、私たちが驚くほど多くの社会活動に精力的に取り組んでいたと知り、沖縄の地や沖縄で出会った人たちが、宇温を成長させてくれたんだと思ったのです」(お父様)

 

川崎さんご夫妻は沖縄の地で芽吹いた宇温さんの志を沖縄の地でつなぎたいと考えました。その志とは下宿の机に残されたメモにあった、「人からもらった幸せをその人だけじゃなくて、他の人にもつなぐ」というものでした。

 

宇温さんが感動を伝えていた「沖縄の地域力」を活かして

「志をつなぐといっても、京都に住む私たちが沖縄で活動するにはどうしたらいいのか。どんな術があるのかを探す中で、生前お世話になっていた先生方を介してみらいファンド沖縄さんを知りました。沖縄にみらいファンド沖縄さんがあるおかげで、基金が創設でき、毎年志をつなぐ運営ができています」(お父様)

 

新入生を迎えるための大学生協の活動や、自治会長へインタビュー、牧志公設市場建て替え計画(当時)に関するフィールドワーク、小学校の夏の林間学校での引率補助、県外の大学生が沖縄に集い平和を考える「Peace Now! Okinawa」への参画など、宇温さんの活動は多岐にわたっていました。その中でも、子どもの居場所学生ボランティアで石垣島へ派遣される予定だったこと、アメラジアンスクール・イン・オキナワでのボランティア活動など子どもたちを取り巻く環境への思いは特に大きいものでした。

 

こうしたことから、琉球宇温基金では、「子どもの居場所学生ボランティアセンター(一般社団法人大学コンソーシアム沖縄内)」と「特定非営利活動法人アメラジアンスクール・イン・オキナワ」に毎年助成活動をしています。宇温さんの志を乗せた助成金は、離島への学生ボランティアの派遣や、授業で使う1人1台のパソコン端末の充足などに充てられています。

 

 

子どもの居場所で活動する大学生ボランティアの皆様

 

「子どもの居場所学生ボランティアセンターでは、琉球宇温基金からの助成を、夏季と春季の大学の長期休暇中に離島の子どもの居場所に多くの学生さんを派遣するのに活用いただきました。センターでは、毎年集まる学生ボランティアの皆さんに、宇温の思いを伝えてくださっています。そして、大学生の皆さんから後日いただくレポートからは、宇温や我々の思いを受け止めながら活動してくださっていることを感じています」(お母様)

 

アメラジアンスクール・イン・オキナワでクロームブックを活用する子どもたち

 

また、アメラジアンスクール・イン・オキナワへの助成に対するフィードバックとして提出される活動レポートには「パソコンの購入に活用し、小学校4年生以上の生徒に1人1台の貸し出しができるようになった。それにより、授業の改善が大きく進んだだけでなく、生徒一人ひとりがパソコンを大切に扱い、取り扱いに責任を持つという大切な姿勢を学校生活の中で育める土壌ができた」と報告されています。

 

「宇温の思いや志をつなぎたい、叶えたかった夢を叶える方法を考えたい」というご両親の願いは、基金を通じて現実のものとなっています。

 

※琉球宇温基金ではニュースレターを発行しており、琉球宇温基金公式facebookページですべてご覧いただけます。

 

「基金がある限り、宇温は生き続ける」

基金の運営にあたって、ご夫妻はみらいファンド沖縄の知見を存分に生かしてくださっています。

 

「平良さんは視野が広く俯瞰的で、『沖縄の子どもたちのためになること』を目指すときに何が本当に子どもたちのためになるのか、沖縄という地域の課題を解像度高く理解された上で未来につながるお金の助成方法を考えてくださいます。われわれの思いや解釈だけではなく、『公益としてふさわしいか』の判断基準が明確なので、とてもやりやすいです。また、活動費を出して終わりではなく、助成先から活動を通じた学びや気づきについて伝えてもらえるように、きちんと運営してくださっています」(お父様)

 

みらいファンド沖縄を活用

みらいファンド沖縄は、寄付をされる方が県外に居住されている場合に沖縄での活動基盤として機能します。沖縄の地に根ざし、地域全体を俯瞰した上で、個々の課題を解像度高く捉え、寄付金の使い道や基金の運営方法を最適化しています。

 

「基金がある限り、宇温は生き続ける」とお父様が語るように、宇温さんの存在は、沖縄の子どもたちや沖縄社会のために活動する人びとを支え続けています。

 

(聞き手:浅倉彩)