CASE01
テーマ型基金「沖縄まちと子ども基金」/寄付と助成のプログラム「たくす」
拠点立ち上げ時の不足資金800万円を寄付で調達 継続寄付は運営資金に
寄付先 : 若年シングルマザーを応援するシェルター支援基金
募集主 : 一般社団法人おにわ
寄付者 : 沖縄県内外の個人の皆様
「おにわ」は、難しい事情を抱えた若年妊産婦の妊娠8ヶ月から生後100日までを支援するシェルターです。おにわを必要とする10代の妊婦たちは、戸建ての住居に長期宿泊し、おにわのスタッフに24時間見守られながら心身と生活を整え、卒業後に地域で働き暮らしてけるようになることを目指します。

一般社団法人おにわ代表理事の上間陽子琉球大学教授(左)と、理事であり現場統括の任務に就く伊禮悠記看護師
はじまりは、性風俗で働く女性たちへの聞き取り調査でした
元々のはじまりは、代表の上間陽子琉球大学教授が2012年~2014年に行った性風俗で働く女性たちへの聞き取り調査でした。2010年に起きた集団レイプの被害者の中学生が自死してしまった事件や、歓楽街の火災で生活費を稼ぐために性風俗で働いていた10代の女性が亡くなった事実。上間さんはこうしたことに胸を痛め、背景を明らかにするために、未成年のうちから家を出ている女性たちや夜の街で働く女性たちの調査を実施しました。
「3年間の調査で出会った女性たちは、多くがシングルマザーでした。そこで、シングルマザー、つまり赤ちゃんを産み育てる家庭に着眼してさらに調査をしようと、『しんぐるまざあず・ふぉーらむ沖縄』代表の秋吉晴子さんと相談しはじめることに。私が調査の実査を、秋吉さんがアクションを考えて、『どんな状況に対してどんな支援が必要なのかを描こう』と取り組みました」
2016年から始めたこの「若年出産聞き取り調査」で、上間さんは「10%ほど見られる厳しい状況に置かれた女性たちの中でも、特に厳しい3%の女性たち」の存在の輪郭を捉えました。その後も国の調査として2015年から2018年にかけて、年間77のサンプルの聞き取りをベースにしたパネル調査を続けるうちに、2018年~2019年ごろに沖縄県の支援側に起因する問題を発見したのです。
「2018年に、県内にあった寄付金を集めているふたつの支援団体の動きがおかしいことに気づきました。2019年には、支援者から訴えがあり、それらの支援団体で暴力を受けたり、女性たちに渡るはずのお金が支援者に取られている実態があることがわかりました。こうした経緯から、『保護できる場所を私たちで作らないとだめなんだ』と自覚し、動きだしたのが2020年です。聞き取り調査の前からもちろん『いる』とわかっていたけれど、困難さの性質が知られていなかった女性たちのことを知れば知るほど、調査だけでは済まなくなっていきました」
みらいファンド沖縄を活用①
2016年の「若年出産聞き取り調査」では、みらいファンド沖縄のテーマ型基金「沖縄まちと子ども基金」から調査費用の一部として20万円の助成金を活用しました。
「調査だけでは、すませられない」シェルター立ち上げへ
シェルターの立ち上げを決心した上間さんは、支援に携わっていた仲間に相談し、悪質な支援者との差異をしっかりみせていくために、「シェルターの中にどんな営みがあり、スタッフがどんな動きをしているかを見せる」ことを行動指針のひとつとして動き始めました。この指針は今も変わることなく、おにわの様子はブログ「お庭日記」 で垣間見ることができます。

おにわは、24時間365日スタッフのサポートがある環境で、傷ついてきた若い女性たちが心身と生活を整える場所です。
立ち上げに際しては、JANPIA(一般財団法人日本民間公益活動連携機構)が運営する休眠預金活用事業をオリオン奨学財団を経由して活用し、1500万円の助成を受けることに。支援の内容について、さまざまな意見や事情が交錯しましたが、上間さんは「もっとも厳しい3%の女の子たちのための居場所をつくる」ことにこだわりました。
「JANPIAの資金はもともとはシングルマザーのキャリア支援がコンセプトの助成事業でしたし、オリオン奨学財団にとってはもちろん企業のイメージアップにつながることも大切で、『心身や生活を整える居住型の居場所』の必要性はわかってもらえたものの、だからといって当初のコンセプトとはずれるわけです。ですが、キャリア支援もイメージアップも、人が生きる土台への支えがあってこそだと、時間をかけて話しました」
根気のいる対話を乗り越え、目標としていた開所資金2000万円のうち1500万円の目処がついた時、上間さんの脳裏に浮かんだのが弊財団副代表理事の平良斗星でした。おにわが開所するという告知が出て1週間程度で、開所の足しにとテレビや本棚を持参、寄付していた平良は、寄付と助成のプログラム「たくす」の活用を勧めました。
基金を創設し、上間さんが出演した全国放送のテレビ番組の好影響もあり、無事に残りの資金調達に成功しました。
「斗星さんに基金の創設を申し出た時に、『テレビと本棚を持って行った時にもう場所は見たし、理念も活動もわかったから、あとはしっかり申請書を』とすぐに動いてくださいました。もともと支援をやるつもりがなかった2018年~2019年ごろに、沖縄における支援側の酷い事態を知ったときにも斗星さんに話を聞いてもらっていたんです。その時に、こちらの話に対する目利きの具合がとにかく信頼できると感じていました。しかも、多くの社会運動に携わっているけれど悲壮感がなくてずっと面白い方で。いつも朗らかでおられることにも素晴らしさを感じていました」
沖縄県の公共事業になり得る公益性を目指して
基金を創設するにあたり、平良は上間さんに次のような質問を投げかけました。「ゴールはなに?」という”活動が目指すあり方”を両者間で言葉で共有するための問いでした。
この問いに対して、上間さんは「もちろん公の事業に、沖縄県に施策にしてもらうことですよ」と即答。その真意は「支援活動が支援側の自己承認となり自己目的化したり、公の目が届かないところで劣化しないように」という、長年の調査に基づく知見を背景にしたものでした。
「若い女性たちからの告発を受けて、お金ありきで、そこに群がって支援を謳う任意団体に対して苛立ってきましたが、そもそも監査のしようがない、といった状況を変える方法を編み出さなければならないと考えていました。同時に、素晴らしい動きをしている民間の団体もたくさんあります。だから、まずはうちがモデルをつくり、沖縄県による公共事業にして、この支援界隈を公共性の領域に引き上げたかったのです」
目の前の1年だけを考えるなら、誰がどう助けてもいいのかもしれません。ところが、上間さんたちのチームは、長期的な視野に立って必要なタイミングで引き受けられる状況をつくるにはどうしたらいいか?を考える人たちでした。そうした人たちが導き出した「公共事業にする」という正解に向かって、おにわはスタートを切りました。
みらいファンド沖縄を活用②(立ち上げ時)
2021年に開所のための資金調達を目的に寄付と助成のプログラム「たくす」を活用した基金「若年シングルマザーを応援するシェルター支援基金」を創設。総額約2000万円という多額の寄付を、広く市民から集めました。
支援の枠にはめない支援を模索する
2022年、おにわは開所の日を迎え、24時間365日体制で目の前の女性たちに向き合う日々が始まりました。そこには、これまで行政の目も調査の目も届いてこなかったさまざまな事情があったといいます。

卒業生が手伝ってくれた、ある日の食卓
「まず、児童手当、児童扶養手当などを受け取るための行政手続きの支援がありますが、これが大変です。13種類程度の書類を揃えれば取れると思っていたら、もう一段厳しい子たちがいる。幼少期から親の都合に合わせて居所を転々としていて、本人も住民票がどこにあるかわからない。通っていた中学校の名前から探ったりして住民票のありかを突き止め、その自治体と、居所のある自治体と、おにわを卒業した後に住むところの3つの自治体で連絡協議会をつくらないと支援メニューを作ることができません。本人だけでは到底無理で、私たちがサポートに入り、さらに『生まれてくる赤ちゃんのために』という動機付けのあるこのタイミングだからこそできるんです」
おにわがこれまで(2024年3月現在)に支援した11母子は、すでにある支援の枠組みを超えた支援が必要な女性たちでした。そうした女性たちに向き合う上での最適解は、全国にも前例がなく、受け入れるおにわチームにとっても手探りだといいます。
「『自分では育てられない』という感覚を持てる子は、かつてどこかでケアされた経験がある子です。徹底的にネグレクトされて育った子は、放置されてきているので『育てられないかも』とすら思わない。赤ちゃんがずっと泣いていても気にならないんです。そういうときは、『大事にする』ってどういうことかを経験してもらうところから始めます。例えば、スタッフから『ごはん何食べたい?』と聞きます。選べたことがないから『なんでもいい』と答えるけれど、『本当は何を食べたい?』と繰り返します。初めは返事もしなかったりするのですが、そういうことも含めて段階的に考えています。いろいろ言われたり、文句を言われたりすることももちろんありますが、『それを言えてよかったー』って。大人に対していろんな仮面をつけてサバイブしてきた子たちなので、こうした感情やその子自身をさらけ出した時の本当は、生活臨床の中でこそキャッチできるのだと思います。それを手がかりにして、スタッフで対話しながら、『自分の意見を聞いてもらえる』という自尊心を育むことから始めています」
上間さんは、おにわにくる女性たちは「境界線をたくさん侵害されてきた人たち」だといいます。その女性たちと「被支援者」だけれども「ひとりの人間」として向き合うために、スタッフが自分自身を「支援者」だけれども「ひとりの人間」と自覚することを大切にしているそう。
「境界線をきちんと引くために、以前に採用していた寮母制から交代制に変えました。そうすると毎日人が変わるので、今度は『今日は誰が来るの?毎回変わるとわからない』という声が聞かれるようになりました。そっかー、とスタッフで受け止めて、『どうにかしないとね』と話しているところです。スタッフも『わたしに対してだけ態度が悪い』と戸惑うこともありますが、『そもそも私たちは好かれるために仕事をしているわけではない』という前提を共有しながら、さらなる傷つき体験をさせない、権利侵害をしない、ジャッジしない立ち位置を考えています。もちろん時には一緒に泣いたり怒ったりしています。相手の立場に立つけど同化はしない、絶妙な立ち位置のラインを模索しています」
支援の枠組みありきの支援ではなく、おにわに来る女性たちが「自分の意見を聞いてくれてありがとう」と思えること、それまで度重なり傷ついてきた女性たちに新たな傷を与えないこと、これらを守ることで、おにわを出た後も何かリスクがあった時に連絡をもらえる存在になること。これが、上間さんが「これに尽きる」と話す、おにわでの支援のあり方です。
国と沖縄県の公共事業、その先へ
2023年10月、おにわは開所からゴールとしてきた国と沖縄県による公共事業に採択されました。これにより、「長期的な視野に立って必要なタイミングでいつでも女性たちを引き受けられる状況をつくる」という目標の達成に向けて、一定の基盤を得たことになります。ただ、公共事業になったからといって、行政の目が届かない”課題の深層”がなくなるわけではありません。当事者と、日々、直接、対峙し、困りごとに向き合う最前線からしか見えない深層から、上間さんらおにわのスタッフは目を逸らしません。
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寄付で購入した着物を着て成人を祝いました
「現場でやることは変わりませんし、今回の事業費では全然、足りません。例えば、シェルターを運営する上で、夜はオンコールのみでスタッフ常駐でなくてもいいのでは?と県の担当にいわれました。でも、困難を抱えた妊産婦が不安定になるのは夜や朝方で、生まれた後は夜泣きしている赤ちゃんを預かることもしています。夜にこそ、スタッフのサポートが必要で、おにわは委託費用を超える費用をスタッフの人件費として使っています。また、親から当たり前のことをしてもらってきていない女の子たちにとって、成人式や子どもの100日記念や1歳の記念日に誰かが用意してくれた振袖を着て写真を撮る経験は、「母親になった自分」「自分のもとにいる子ども」の姿を長く覚えていられる1日という心の基盤をつくる上で必要不可欠なものです。でも、行政の視点からは『不必要』に見えます」
みらいファンド沖縄で創設している基金(寄付と助成のプログラム「たくす」)が、市民の方々からの寄付金を集めることで力になれるのは、まさにこうした部分です。上間さんのように、困りごとを抱えた人や状況を「放っておけない」と動き出す市民を、市民が支えるあり方を、今後も継続していきたいと考えています。
みらいファンド沖縄を活用③(継続的な運営)
他の助成事業や公共事業の対象になりづらいけれど、現場に近いからこそ見える本質的な活動のための経費の調達を目的に、基金を継続して運営。随時、寄付を募集しています。
(聞き手:浅倉彩)