CASE04
じぶん基金
沖縄の基地問題に心を寄せたお二人の思いを 若手研究者の最初の書籍の出版費用に
寄付先 : 秋山道宏さん・上原こずえさん
募集主:中野五海・篠木あつ子基金
寄付者 : 中野五海さん 篠木あつ子さん
中野五海・篠木あつ子基金は、じぶん基金として創設された基金です。「沖縄の平和活動に託したい」という創設者の意思のもと、沖縄への思いが乗った”志金”は、若手研究者が最初の著書を出版する費用として二人の研究者の手に渡り、その後の飛躍の足がかりとなりました。
「沖縄の平和に資する何かに託したい」
関西で暮らしていた故中野五海さんと故篠木あつ子さんは、基地問題を含め政治的に抑圧された状態にある沖縄に強い思いを寄せるお二人でした。篠木さんが末期がんを患い余命いくばくもない状況の中、「沖縄を勇気づける何か」に100万円を託す意思を持ち、みらいファンド沖縄に辿り着かれました。篠木さんは基金が創設され寄付が実施された直後に亡くなり、それからまもなくして中野さんも亡くなっておられるため、本ケースは担当した副代表理事の平良の記憶をもとに綴ります。
「沖縄を勇気づけたい」との思いを形にするため、お二人は当初、辺野古地域への記念碑の建立を考えました。これがきっかけとなり、辺野古基金から「みらいファンド沖縄という財団が平和活動を支援する基金を運営している」と紹介されたことからみらいファンド沖縄でお手伝いすることになりました。
インパクトを生む寄付先に辿り着くまで
”志金”が生かされる沖縄の平和に資する活動はないか。お二人と平良はディスカッションを重ね、平和活動の礎となる思想や歴史の研究者が減っているのではないかという課題に到達しました。
「みらいファンド沖縄としても、理系の研究や運動系の活動とのネットワークは強いけれども、文系の研究にはアプローチできてこなかったと気づきました。新崎盛暉平和活動奨励基金の運営委員会でも、故新崎盛暉先生の次世代の文系研究者が育っていないのではないか、と議論をしてきました。そこで、新崎基金の最も若い選考委員であった若手研究者の我部聖さんに相談を持ちかけました。すると、『いい研究者だけれど、大学の助教や研究員といった不安定な立場で頑張っている人がいる』と言うので、推薦をお願いしました」(平良)
そうして現れたのが、単著を出版するタイミングだった秋山道宏さんと上原こずえさんでした。中野さんに提案したところ「いいね」と快諾。100万円のうちの20万円を基金創設委託手数料としてみらいファンド沖縄が受領し、秋山道宏さんと上原こずえさんに30万円前後のサポートが実現しました。
「研究者にとって、名刺代わりとなる単著が出せるかどうかは、その後の研究者人生を左右する重要な分かれ目です。ただ、論文を本にしても売れるものではないので、純粋な商業出版は難しい。出版にかかる150万円の経費のうち半分を出版社がもち、半分は本人が出費する自費出版になります。本人が出費する75万円を捻出する上で、30万円〜40万円のサポートが受けられるのは大きなインパクトになります」
沖縄の市民にとっても、商業ベースでは売れにくい戦後史系の本が出版されることは、知ろうとする選択肢を増やすことであり、未来の研究者に希望を与えることにもつながります。中野さんには、1回限りの寄付であっても、使い方次第でその後につながる大きなインパクトを生み出せることを十分にご理解いただき、喜んでいただくことができました。
みらいファンド沖縄を活用
みらいファンド沖縄は、市民コミュニティ財団として多岐にわたる沖縄の困りごとに関わってくる中で、多様な人的ネットワークを構築しています。本ケースでも、つながりのある人びとが持つ知恵を活かし、特定の分野に思いを持つ中野さんと篠木さんにとっての納得解をオーダーメイドで考案させていただきました。
若手研究者の未来が、寄付者の没後に築かれていっています
お二人の思いがこもった寄付が二人の若手研究者の手に渡り、秋山道宏さんの「復帰の頃の基地社会・沖縄と「島ぐるみ」の運動:B52撤去運動から県益擁護運動へ」、上原こずえさんの「共同の力 一九七〇~八〇年代の金武湾闘争とその生存思想」が出版されました。それからまもなく、篠木さんは旅立たれました。しばらくして、連絡が取れなくなっていた中野さんが亡くなったことが娘さんからのご連絡でわかりました。
「『父が亡くなりました。遺品を整理していたら、基金の申込書と日記が出てきた』と、娘さんからご連絡をいただいたのです。『日記には、”沖縄への強い思いを持っていた篠木さんに義理が果たせた”と書いてあった』と」
秋山道宏さんと上原こずえさんは、その後立派に研究者としての道を歩まれています。現在、上原こずえさんは東京外国語大学大学院総合国際学研究院の准教授、秋山道宏さんは沖縄国際大学総合文化学部社会文化学科の准教授として、研究と若い世代の教育に取り組んでいます。
沖縄の平和への思いを持つ方の資金で、沖縄の若手研究者の出版支援を行った中野五海・篠木あつ子基金は、両者のニーズに真摯かつ的確に応えられるモデルとして、みらいファンド沖縄に蓄積されています。
(聞き手:浅倉彩)